戸建ブランドに関して

新築戸建を探すまでは全然知らなかったのだが、戸建業界は非常に細分化されている。マンション分譲と異なり参入障壁が低いためだ。マンションだと土地購入金額も高くなるし、着工から引き渡しまでの期間も長いので資金が長期間寝てしまう。そのためある程度資金力が無いと参入できない。逆に戸建だと数ヶ月程度で竣工するので資金の回転も速い上、小規模な土地で充分なので資金力はそれほどなくてもよい。そのため零細企業でも参入しやすいのだ。
このような事情があるので大手デベロッパーのシェアは大して高くない(以前、プラウドシーズン新作発表会で具体的なシェアの数字を聞いたような気がするのだが忘れてしまった)

戸建に参入している大手デベロッパーとして代表的なのが、三井不動産レジデンシャル野村不動産だ。なお大手では三菱地所住友不動産も手がけているが件数は多くない。
三井と野村はそれぞれファインコート、プラウドシーズンというブランドで分譲している。戸建を探す過程で、この2社の物件はかなり見学しているが、両社の販売姿勢というか、営業マンの態度がけっこう異なっておりなかなか興味深い。
野村不動産が「上から目線」的な態度でアグレッシブな印象(決して言葉遣いが悪いとか、そんなことは全くないのだが)に対して、三井不動産レジデンシャルは低姿勢でのんびりしている。両社とも現地販売センターには正社員とおぼしき営業マンは少なく、パートのおばちゃんが多数動員されている。一見客には最初、おばちゃんが接客し、再度の来訪時には正社員が対応するという流れのようだ。両社ともファインコートゴールド会員や、プラウドクラブシーズンメンバーという会員制度があり、これらの会員になると、下記にあるように抽選時に優遇倍率をもらえたり購入時には数十万程度のサービスを提供されるという特典がある。ゴールド会員はいつ入会しても次の3月末までが有効期間だが、シーズンメンバーは入会日の一年後までが有効期間というのも微妙な違いではある。両社とも新作発表会という説明会に参加することで会員資格の取得・更新は可能だ。ちなみに三井不動産レジデンシャルの場合は説明会に参加すると手土産にお菓子をくれたが、野村不動産の場合はなかった。

基本的に両社とも完成済み物件を販売するのだが、三井の場合は、お客に希望する区画を自由に見学させるに対して、野村の場合にはモデルルームぐらいしか見せない。このあたりが野村の「上から目線」的な雰囲気を感じさせる要因の一つだ。
両社とも見学の際には白い手袋をお客に渡し、着用させた上で住戸の中に入ってもらうのは同じ。野村の場合は記憶にないが、三井の場合は手袋はお客が貰って帰っても良いので多くの物件を見学すると自宅が白い手袋であふれることになる。
また現地販売センターにおいて、三井は大したイベントは行わない(せいぜい施工会社を招いて建物構造説明会を開催する程度)が、野村ではプレゼントやクオカードを配ったり、住宅にはあまり関係ないイベントを開催したりして客集めにはかなり注力しているような印象を受ける。

マンションと同じように戸建でも両社は登録抽選方式で販売を行う。先着順にすると、人気物件の場合にはiphone発売日前日のapple storeのように長蛇の行列ができてしまう可能性もあるだろう。後述するように三井の場合は社内での価格設定の方法から見ても先着順販売をするのは難しいと思われる。
三井の場合だと金曜日と土曜日もしくは土曜日一日のみを設定してその期間に、購入希望者に希望区画を指定させた登録申込書なるものを提出させる。その日に販売センターに行くことが難しい場合でも事前に提出できるのであまり日程は関係ない。前述のように会員になっていると優遇倍率がもらえる。ゴールド会員が抽選で当選したにもかかわらず、契約をしなかった場合にはゴールド会員の資格が剥奪されると規則に明記されている。まあ当然だろうと思う。野村の場合は期間がもっと長いようで1週間程度登録を受け付けているケースもある。
営業マンとしてはすべての区画を売り切りたいので、特定の区画に購入希望者が集中してしまうことを恐れる。特定の区画への集中を避けるために用いられるのが家具の設置だ。20区画や30区画も完成済み戸建を販売する際には、全部の区画に家具を配置することはしない。面倒だからということ以外にも、売りたい区画(つまり購入希望者がいない区画)に家具を配置することでその区画の印象を良くして客を誘導するためだろうと考えられる。家具があるかどうかの違いで印象が違うものかと不思議に思うかもしれないが、意外にも結構違うものだ。


価格設定の違い
野村の場合は現地販売センターをオープンさせた時点で分譲価格は決まっているようだ。(すくなくとも私が見に行った物件では) 
いろいろな物件を見たおかげで慣れてしまったのだが、三井の場合は少しというかかなり奇妙である。まず三井の場合は販売商戦の開幕イベントともいうべき代物が、事前案内会なるもので、これは2週間程度行われる。このときにはいくつかのモデルルーム(もちろん家具も設置済)のみを見学させ、営業マンからはすべての区画の間取り図を渡される。この段階では価格は300万円刻みで提示される。たとえば、8000万円前半、8000万円中盤、8000万円後半といった感じである。なぜかこの価格帯情報は印刷されていない。価格の欄のみが空白になった紙を渡されるので、営業マンが提示する価格帯情報をボールペンで書き写すことになる。営業マンもこの奇妙な風習というか習慣には自分でもおかしいと気づいている。そして2週間程度経つと、今度は希望住戸見学会というフェーズに移る。前回渡された間取り図を参考にして、関心を持った区画の中を見学させてもらう。この段階では100万円刻みで価格が提示される。事前案内会と同様にお客自らが価格を書き写すことになる。そしてまたまた2週間程度経つと今度は希望住戸アンケートというフェーズに進む。これはプレ登録のようなもので、どの区画を登録したいとアンケートに書いておくと、営業マンは競合しないように他の客を別の区画に誘導してくれる(成功しない場合も多数有ると思うが)。そして1週間程度経つとようやく登録となる。さすがに登録時には価格は決定している。最初の価格帯と、正式価格を比較してみるとなかなかおもしろい。米国の株式のIPOを連想させる。事前案内会で提示される価格帯がプライスレンジで、正式価格がオファープライスといったところか。(脱線するが、マンション分譲で複数のデベロッパーが売主になっている場合があるが、さしずめ共同主幹事といったところか) 比較するとプライスレンジの真ん中で正式価格が決まっているとは限らず、プライスレンジをかなり下回っている場合もよく目にする。逆にプライスレンジを上回るのは一度も見たことがない。プライスレンジを上回ることが許されないという事情があるようなので、高めに設定して客の顔色を見ながら引き下げていくのだろうと思う。


「ダメマンションを買ってはいけない」に書かれていたので、抽選なんていい加減なものだと思っていたのだが、現実にはちゃんと行っているようだ。優遇倍率を持っている会員が抽選で外れてしまうケースもあるという。
野村から来たダイレクトメールには、抽選会場の様子や、登録申し込み会場の熱気などを紹介しているのがあった。野村は抽選を盛り上げ、即日完売を目指しているように見えるが、三井はあまり即日完売を追求しているようには感じられない。(もちろん即日完売の方が営業マンとしては嬉しいのだろうが)
即日完売と行っても、大規模な物件だと、期を分けて複数回に分割して販売するので、第一期、第二期が即日完売でも最終的には売れ残りになるケースもあると考えられる。野村も三井も客の動向を見ながら第一期でどの区画を販売するかを決めるので、買い手が見当たらない区画はそもそも第一期の販売対象にはしない。このような事情を考えると第一期における即日完売は決して難しくないのだろう。まあ人気がない区画の販売を後回しにすることで問題を先送りにしているにすぎないのだが。期を分けて販売する場合には、条件の良い区画から売りに出すと営業案マンから聞いたことがある。そうすると第二期において柔軟に価格設定(つまり値下げ)ができるためだ。第一期で購入した契約者も、第二期は条件が悪いので安くなっても仕方が無いと考えてくれる(はず)と踏んでいるのだろう。戸建の場合は土地の個別性が分譲価格に大きく反映されるのでこのような手法は使えるのかもしれないが、マンションの場合だと難しそうだ。よく分からないのが第一期第二次といった具合に、同一期の中に二次を設定して登録を受け付けるケースだ。

両社とも、抽選して当選者が確定するとあまり間を開けずに、重要事項説明会・契約会を行う。高い買い物なので契約までの期間が長いと客の買う気が無くなってしまうことを恐れているのだろう。野村の物件で、日曜日の午後6時に抽選し、午後8時に重要事項説明会を開催するというかなりきつい日程のものがあった。


住宅性能評価の考え方
野村の場合は設計・建設ともに住宅性能評価を取得しているのに対して、三井の場合は長期優良住宅(昨年、ファインコート上鷺宮で初めて手がけたらしい)を除いては住宅性能評価を取得していない。三井のブランドがあればわざわざお金を出してまで外部機関による評価を受けるメリットはないと考えているようだ。この対応をどのように評価するのか難しい。デベロッパーの信用力が低い物件ほど住宅性能評価を取得するメリットが高いはずなので三井の方針も理解はできる。


デザインについて
プラウドシーズンの特徴は、赤茶色の瓦だ。これが高級感とブランドの統一感を感じさせる。反対に、ファインコートは物件毎にデザインはけっこう異なっている。私が見た限りでは瓦葺きはなく、スレート葺きしかなかった。プラウドシーズンではデザイナーの名前が登場することはないが、ファインコートでは誰がデザインを行ったのか、外部の建築士の名前を全面的に打ち出している。特に目立つのがエクステリアデザインを手がける小西玲子氏で、関東のファインコートの物件はほとんど関与しているのではないかという大活躍だ。