ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10〜20世紀

ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀

ヨーロッパ帝国主義の謎―エコロジーから見た10~20世紀

読了。別の角度から歴史を見るとこんなに違って映るのか。適切な問いが与えられれば歴史も面白くなるのだなあと思う。疑問を感じないまま年表を見ても無味乾燥な事実の寄せ集めにしかならない。
ヨーロッパ人たちが大挙してネオ・ヨーロッパ(アメリカ大陸・オーストラリア・ニュージーランドなど)に移住した背景にはいくつかの要因がある。まず、ネオ・ヨーロッパの気候が欧州に似ていたこと、食料の生産性が極めて高かったことだ。欧州では飢餓が頻繁に起こっており、食料生産では限界に来ていただけに、豊富な食料が簡単に手に入る新世界は非常に魅力的に映った。日照量が多いと植物の成長も早いが、必ずしも熱帯が植物の成長という点では有利ではない。天候の問題で日光が遮断されることも多いためだ。また熱帯で生育される植物はたんぱく質が劣るという問題もある。
欧州から多くの人口が流出することで、欧州にも大きな影響を与えている。ネオ・ヨーロッパが大きな市場または原材料供給基地と成長したためだ。これは欧州の成長を助けることにもなった。欧州とネオ・ヨーロッパの人口成長率は驚異的だったようだ。しかしネオ・ヨーロッパの人口構成も高齢化するにつれて、人口成長率も鈍化し、いっそう多くの食料の余剰生産を抱えることになる。この余剰生産は、世界中に輸出されることになり、世界中がネオ・ヨーロッパに食糧を依存するようになった。この依存度の高さは、石油における中近東への依存度を上回る。
上記のようなネオ・ヨーロッパの利点は旧世界より、女性をネオ・ヨーロッパに引き出すことに成功したということもネオ・ヨーロッパの成功につながったような感じがする。女性が新世界に男性と一緒にやってこないかぎり、ヨーロッパ人の人口は新世界では増えないためだ。現地の女性と結婚して子供をもうけるという方法もあるが、この場合は子供のアイデンティティは父親よりも母親の影響を大きく受けてしまうという欠点もある。

独立戦争以前にアメリカにやってきた白人の3分の2は年季契約奉公人というもので、自ら進んで奴隷のように身体の自由を提供するようなものだったらしい。豪州にやってきた人の多くは囚人で、ニュージーランドだけが自由な労働者により建設されたものだという。

この本を読んでつくづく感じたのは、病気がいかに社会に影響を与えてきたのかという点だ。ネオ・ヨーロッパでは病気がヨーロッパ人に大きく味方することになる。病気だけではなく一緒に連れてきた生物もそうだ。人間だけではなく、生態系というチームとして成功を収めたといえる。生態系を破壊し、人工的に環境を作り直すというヨーロッパ的な手法が、ネオ・ヨーロッパ元来の動植物を駆逐し、ヨーロッパ的手法になじんでいたヨーロッパの動植物に活躍の機会を与えた。

長い間隔離されていたために、ネオ・ヨーロッパの原住民(インディアン・アボリジニ・マオイなど)は病原菌に対する抵抗力を身につけることができなかった。短期的には隔離は病気に対して効果があるのだろうが、長期的にはより大きな打撃を受けることになってしまう。病原菌以外でも隔離された社会はさまざまなデメリットを受けるのだろう。近隣社会からの知識を享受できないとか。

ネオ・ヨーロッパの原住民が衰弱したのは、旧世界よりやってきた欧州人に対して人口で圧倒されてしまったということ以外に、アイデンティティ崩壊という要素も大きいようだ。人口成長率の格差や病気の蔓延などが原住民を無気力にしていったという。

ネオ・ヨーロッパに、欧州人がいきなり進出したのではなく、予行演習と呼べる手ごろな場所が存在した。カナリア諸島マデイラ諸島アゾレス諸島である。この島々での展開は後のネオ・ヨーロッパの将来を暗示するものであった。

不思議なのが、ヨーロッパからネオ・ヨーロッパには一方的に動植物や病原菌が進出したという事実である。逆になることはほとんどなかった。ネオ・ヨーロッパ元来の動植物が欧州に進出して繁殖してもいいはずなのにそのような展開にはならなかった。例外的にネオ・ヨーロッパから欧州に輸出された病気が梅毒だが、これも欧州の人口には対して影響を与えなかった。

アフリカや東アジア、オーストラリア、アメリカ大陸の原住民はミルクを大量に飲むことができなかった。消化することができずに、腹を壊してしまうためだ。これは放牧生活を営むことを放棄させた可能性もあるという。現在ではともかく、飢饉ぎりぎりの生活を送っていた時代では、ミルクの消化能力は生存の上でかなり重要ではなかったか。放牧生活を放棄させたとすると、動物に由来する感染症への抵抗力を弱めることになったかもしれない。

旧世界の主要栽培植物は小麦で、新世界はとうもろこしだった。生産性は小麦のほうが高かったので人口増加を引き起こし、都市の形成を可能にした可能性も指摘している。

関連図書:

いずれもウィリアム・H. マクニールという人物の書籍。