繁栄 / マット・リドレー

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(下)

非常に興味深い本だった。元エコノミストの記者らしく、交易が人類の生活水準を引き上げてきたと主張する。交易は他人の頭脳や労働の成果を利用することであり、そのおかけで人類は専門的な知識に基づく財やサービスを利用できるようになってきたのだ。逆に交易が衰退すると、集団が保持できる専門知識が衰退し、生活水準も低下すると指摘する。
交易を通じてアイデアとアイデアが接すると(本書ではアイデアのセックスと呼ぶ)、化学反応を起こして別のアイデアが生まれる。現在はインターネットが広く普及しており、アイデアとアイデアが接するのが非常に容易になってきた。
なぜか、人類は今まで右肩上がりで生活水準を向上させてきたのに、将来に対しては常に悲観的であった。人間が将来を予想する際には、現在を基準に考えてしまいがちだからだ。ただ、今までがそうだったようにアイデアとアイデアが接して発生するイノベーションにより問題も解決できるだろう。
地球温暖化に対しても懐疑的な立場だ。10年前には酸性雨が森林を破壊するとの警告があふれていたがそうはならなかった。温暖化に対してもそんな匂いを感じるようだ。温暖化により最貧国は打撃を受けるかもしれない。ただなぜ打撃を受けるのかというと、災害に対する備えがないためである。つまり貧しいためだ。そうすると、地球温暖化対策としては、最貧国の経済成長を促すように援助するというのが一番望ましいように思える。ただ最貧国(特にアフリカ)は、統治面での問題などがあり、なかなか経済成長を軌道に乗せるのは難しいかもしれないが、著者はこの点に関しても楽観的だ。

交易を盛んにすることが繁栄への道だとすると、食料の自給自足なんて愚行に等しい。著者はなぜ国単位で自給自足をしなければならないのかと問う。町単位や個人単位では駄目なのか、そもそも地球単位で自給自足できればいいじゃないかと。