イギリスの憲法改正

Constitutional reform: All change | The Economist
今となっては先週号のこの記事も内容が古くなってしまったが、先週号の中では一番興味深いものだった。
イギリスにはもちろん成文化された憲法は存在しないが、現在、連立政権が目指している政策は事実上の憲法改革に相当するものだ。
その第一弾が、先日行われた下院の選挙制度の改正を巡る国民投票だった。シンプルな小選挙区制(first-past-the-post)から、AV(alternative-vote)と呼ばれる候補者に順位付けを行い、小政党にも公平な制度への移行を目指すものだ。結局この国民投票は現状の小選挙区制を維持することで国民の審判は下ったわけだが、これ以外にも統治体制の改正が予定されている。下院の定員の削減や選挙区の大幅な見直し、さらには貴族院の廃止・首相の解散権の廃止といった大胆なものまで含む。貴族院は現状、世襲制の議員が多く含まれているが、この制度を廃止して、政党単位の比例代表で選ばれた議員と、選挙の洗礼を受けない任命された議員という二組の議員で構成されるものになることが検討されている。現在の貴族院は選挙の洗礼を受けていない議員で構成されるので、下院の意向を尊重する慣習があるが、貴族院(名前も変わるはず)の議員も選挙から選出される以上、貴族院と下院の関係も今まで通りには行かなくなる可能性があり、両者の関係もあらかじめ明記しておく必要性も出てくる。そうなると事実上、憲法を成文化するに等しくなる。
どこまで連立政権が、改革を進めるのかは国民投票の結果に依存し、国民投票自由民主党(Lib Dem)が主張するAV制の導入が拒否された以上、連立パートナーの保守党(AV制には反対の立場だが自由民主党を連立に取り込むために国民投票の開催に同意した)は、自由民主党を懐柔するために貴族院の改正では妥協する必要性も生じる可能性がある。今まで主張してきた政策がなかなか導入できず(特に大学の学費値上げ反対など)自由民主党は支持率も下落しており、AV制導入でも敗北した以上、なんらかの果実を得ないことには連立に加わっている意味も見いだしにくいためだ。
しかし、不景気の最中に、なぜこのような大規模な改革を進めるのか、それは前の労働党政権が残していった宿題を片付けるという意味合いがある。労働党政権の頃にも統治体制の大幅な改革が進められた。ロンドンでは市長が公選されるようになったし、スコットランドには大規模な分権化が行われた。不思議ではあるが最高裁判所もこの頃になってようやく誕生した(それまでは貴族院の議員で最高裁に相当するものを構成していたので、司法は独立していなかった)。