直接民主主義の適用を誤ったカリフォルニア

The people's will | The Economist
妻と子どもが帰省していて暇なので夕食後読んでいた。カリフォルニアの政治が機能不全に陥っていることはThe Economistでも何度も取り上げられている。今回のスペシャルレポートも同じような内容だがもっと掘り下げてこの問題を論じている。米国の建国の父たちは、古代ギリシャを見て、直接民主主義の危険性を感じ、共和制を取り入れたわけだが、カリフォルニアではなぜか大規模に直接民主主義を導入するに至った。おそらくろくに政府が守ってくれることも期待できない状況で、自分たちの力を信じ開拓民としてやってきたカリフォルニア人にとっては、自分のことは自分で決めるという考えはすんなり受け入れられたのだろう。残念なことに、カリフォルニアでは住民投票やリファレンダムは圧力団体に対する抑制という意味があったのだが、現在では逆に圧力団体が自らの利益を追求するための道具になってしまっている。The Economistでよく使われる、unintended consequencesそのものだ。カリフォルニアの住民投票が強力なのは、法律どころか憲法まで修正できてしまうことと、議会が破棄することができない点にある。住民投票を議案に乗せるためには短期間で多くの書名を集める必要があるのでお金もかかるし、住民投票自体が一つの巨大産業と化し、自らの商売のネタを探すために、住民投票を支援する企業が住民投票のアイデアを売りまくるという奇妙な事態になっている。
また、住民投票では、有権者は税収を気にせずに行政サービスの拡充を認めることが可能であるために予算策定が厳しくなっている。これは議員の権限の縮小と同じであり、議員にとっては財政危機の責任を感じるはずもなく、無責任体質の蔓延につながった。ようやくカリフォルニアでも改革の動きが出ており、すでに選挙区の区分けを独立委員会で行うことと、予備選から党籍という条件を除外することが実現した。これで穏健派の議員が多数登場することが期待される。しかし本当の改革は住民投票制度だが、廃止(皮肉なことに住民投票を通じて)はほとんど不可能だ。有権者も一度手に入れた権利を簡単に手放すわけがないためだ。住民投票を通じた改革ではなく、州憲法そのものを制定し直す動きもあったが資金不足で頓挫している。(おもしろいことに州憲法を再制定するのは他の州ではそれほど珍しいものではないようだ。)
同紙によると改革案として、住民投票をもっと穏やかにするという方向性を提案している。議案を住民が決めるのではなく、議会も議案作成のプロセスに関与させて、しかも賛成多数で成立した住民投票も議会でさらに審理させるべきという。カリフォルニアはスイスの直接民主主義に憧れて同じような制度を導入したわけだが、スイスでは住民投票は住民と議会の対話の道具として用いられているのに対し、カリフォルニアでは住民が議会を攻撃するための武器と化してしまっている。日本ではなかなかここまで極端な状況にはなりそうもないが、カリフォルニアの問題、そして改革の方向は他国にも影響を与える可能性が高いだろう。