消えてゆく女の子

The war on baby girls : Gendercide (The Economist)
Gendercide : The worldwide war on baby girls (The Economist)
The economistでは人口動態に関する記事が多い。未来を予測する上で人口動態ほど確信を持って使える基礎データはないからだろう。今回の記事は、1億人(おそらく年間)の女の子が殺されているという話。ほとんどは中絶によって殺されているものと考えられるが、記事の冒頭のエピソードのように生まれた直後に殺されたり、育児放棄という形で殺される場合もあるようだ。なぜ殺されてしまうのか。多くの文化において男の子が重視されているためだ。中国では一人っ子政策のために、女の子が少なくなり男女比がいびつになっているという話はよく聞くが、これは中国固有の問題だと思っていたが、そうではないようだ。インドなどの他のアジア諸国(東欧でも)でも同じような傾向があるらしい。
新興国の経済発展がこのいびつな男女比をさらにいびつにしている。というのも豊かになると少子化が進むためだ。しかし経済成長を経ても男が優位な価値観はそう簡単には変わらない。さらに超音波検査を受けることができるより、妊娠中に男女の区別がつけることができるようになったことも拍車をかけている。
男女比が男に偏りすぎていると、当然のことながら結婚できない男が増えてしまう。中国で結婚適齢期にありながら結婚できない男性の人口は、米国の若年男性人口(独身・既婚問わず)に等しいという。結婚して子どもを持たないと一人前とは見なされない社会で、独身男性が増えてしまうとどのような状況になるか。犯罪の増加である。また興味深い現象として、中国では結婚相手としての魅力を高めるために、独身男性の親は多くの貯蓄をする傾向があるという。米国の住宅バブルの原因が中国の過剰貯蓄(経常黒字)にあるという説を採用するのであれば、中国の一人っ子政策が米国の住宅バブルに荷担したということになってしまう。これに限らず、男女比が異常に偏ってしまうと予想もしなかったような問題が生じるかもしれない。
the economistは、男女平等を進めて男優位の社会・価値観を変換させないと、この事態は変わらないと主張している。男女比の是正に成功した国として韓国がある。ただ韓国も政府が独自の政策を導入して是正に成功したと言うよりも、社会の価値観の変化が是正を促したと言えるようだ。

以前CBSドキュメントでも中国の独身男性の苦境に関して紹介していた。(http://d.hatena.ne.jp/ichiyu/20060708/p2)