民主主義と個人の自由

Direct democracy : The tyranny of the majority (The Economist)
Religious freedom : Too many chains (The Economist)
この2つともThe Economistらしい記事と言える。民主主義と個人の自由の関係を取り上げているという点で似通っている。最初の記事は米国での直接民主主義の普及とその弊害を紹介している。この代表例がカリフォルニアだ。米国の建国の父達は直接民主主義というものをあまり信用していなかったらしい。しかし間接民主主義というか共和制(republic)も米国が発展していく過程において必ずしも機能しているとは言えなかった。汚職や怠慢が議員達の間で横行していたためだ。このような状況に対応するために、住民投票などの直接民主主義の方法が導入されてきたという経緯がある。ただ、近年では内容が変質しつつあり、議員と結びついた特定の利益団体の行動を抑制するために導入された住民投票が、皮肉なことに利益団体が自分の主張を実現するために利用する道具となってしまっている。資金力があれば住民投票を求める署名を集めるのも容易である。この分野に特化した業界まで誕生している。カリフォルニアでは、住民達が住民投票でよりより行政サービスを導入させたが、その一方でコストを鑑みなかったために現在の財政問題を引き起こしている。またゲイの結婚を住民投票で禁止したことなどは、多数者が少数者の人権を抑圧していることに等しい。また党派色が強まり議会が機能しなくなったために、知事さえ住民投票で政策を実現しようとする動きさえ見られる。
二つ目の記事は、世界規模で見ると、信仰の自由は向上しているとは言えないと結論づけた調査を紹介している。民主主義と信仰の自由は必ずしも同一歩調を取るわけではない。先の記事と同じように民主主義が少数者を抑圧することだってある。アラブにおいては独裁体制を敷いているシリアでは、政治的な自由は抑圧されているが、クリスチャンになるのは容易だ。もしシリアで民主主義が誕生すれば、クリスチャンが弾圧される可能性は高い。独裁者が少数者の自由を保護することもあるのだ。インドでは民主主義が発達しているものの、いくつかの州では信仰を変えることを禁止する法律さえある。