疫病と世界史 上 / ウィリアム・マクニール

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

引き続き読む。どんどんおもしろくなってきた。インドと中国で政治体制が異なった理由を疫病に求めるのには驚く。しかもその理由付けを読むと納得させられてしまう。政治的な儒教と、非政治的な仏教、それぞれ中国とインドに生まれたのも、気候や病原菌へのリスクがそれぞれ異なっていたためという説明もビックリである。目からうろこ落ちまくりである。歴史を見る上で一つの視点を提供してくれる。
インドは中国と異なり、熱帯に近い気候なので人間を脅かす病原菌の種類も多い。そのため農民の生産性も低くなってしまい、支配者によって収奪できる生産物も中国と比較して低くならざるを得なかった。それがインドの政治体制が脆弱になった要因の一つであったという。農民に寄生するマクロ寄生(権力者)とミクロ寄生(病原菌)という二つの存在がどのようにバランスを取るか、マクロ寄生が強かったのが、中国で、逆がインドになる。インドでミクロ寄生が強かったことは現世を厳しいものとし、現世よりも来世に注目する仏教が生まれ、反対に、マクロ寄生が強い中国では現世のみを見つめる儒教が生まれマクロ寄生の権力濫用を戒めるようになった。またインドでは多種の病原菌が存在したことが、他の地域からの侵略を難しくするという結果にもつながっているという。

宗教における禁忌の中にも病気に関係するものが多いとの指摘もある。たとえばユダヤ教イスラム教では豚肉を食べることを禁止しているが、これも感染症を防ぐ狙いがあったのではないかという。またインドのカーストが生まれた背景にも病気への感染を防ぐという狙いがあったと著者は見ているようだ。

この文庫本の帯には、同じ著者の「世界史」(ASIN:412003190X)も来年1月には文庫化されると書いてある。ぜひ読もう。