- 作者: ロバート・ルービン,ジェイコブ・ワイズバーグ,古賀林幸,鈴木淑美
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2005/07/26
- メディア: 単行本
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いきなり95年のメキシコ金融危機の舞台裏から始まるという構成もいい。これで引き込まれてしまった。感心するのは、ミーティングにおいてつねに反対意見を引き出すようにしていた点だ。参加者の地位に関係なく意見を平等に扱っていたということも興味を引かれた。「世の中には絶対というものはない」という蓋然的思考がルービンの人生を貫いているというのだが、この考え方は自らへの懐疑心をも副産物として生み出していたのかもしれない。「自分が間違える可能性は常に存在する」という信念または哲学が、積極的に周りから意見を求めるような行動に結びついたのだろう。
蓋然的思考はハーバード大学で哲学の授業を受けている際に培われたものだそうだ。そしてその後ゴールドマン・サックスで裁定取引の仕事をするに従い人生を貫く一本のバックボーンとなったようだ。裁定取引といっても単純なタイプではなく、ルービンがやっていたのがリスク・アービトラージと呼ばれる取引で、裁定取引という言葉が持つイメージとは異なり確実な収益をもたらすものではない。リスクという単語が付いているように、損失を抱える可能性もあり、確率に基づいたゲームだ。そのため損失を計上したからといって失敗だったわけではない。保険会社にたとえると多くの保険加入者を抱えていれば、保険事故が発生し、保険金の支払いに直面することが避けられないのと同じである。大事なのは確率を正確に見積もることと、許容できる水準以上に損失が拡大しないようにポジションを管理することだ。しかしリスク・アービトラージは80年代の買収ブームから発生したものだと思っていたが、もっと昔より存在していたのか。
ゴールドマン・サックスでの話は予想に反して少ない。やはりホワイトハウス入りしてからの記述が多い。クリントン大統領のこともかなり高く評価している。元部下だっただけに多少は割り引いて考える必要もあるかも知れないが。クリントン大統領自身も部下からは常に率直な意見を求めており、形式張らない性格だったみたいだ。しかし本書を読んでいてよく分からないのはホワイトハウスの組織だ。首席補佐官を始め様々な役職があるが、どのような上下関係・職務分担になっているのかよく分からない。
しかし本書を読んでいてつくづく感じるのは非常に謙虚、控えめな人物だなあという点。それに尽きる。