中国のインフレは好感すべきか。

Economics focus: Learning to like inflation | The Economist
中国のインフレは世界中の懸念の的だ。インフレを押さえ込むために金融引き締めで景気が急激に冷え込むというシナリオを恐れているためである。しかし必ずしもインフレは悪いわけではない。特に中国のような新興国ではそうだ。中国は高い経済成長の割には、インフレは比較的低水準となっている。というのも、国内の余剰労働力が大規模であったために、経済成長に伴う賃金上昇圧力が低かったためである。しかし最近は若年労働力の増加も一段落し、賃金上昇圧力も高まってきた。これは中国の経済の構造変換を促す意味でも悪くない現象だ。賃金が上昇することで労働者の購買力も増えるためである。これは中国の経済成長が外需に依存しているという現状を変える効果がある。
外需に依存するという経済構造を変えるためには、当然、為替レートを引き上げるという手段もあるが、必ずしも効果的ではない。日本のように円高になっても外需への依存度が変わらないケースもあるためだ。しかも為替レートを一度に引き上げると、経済の混乱が予想されるし、徐々に引き上げると今度は海外からの投機資金の流入を招くという問題も出てくる。
このような背景を考えると、国内の賃金上昇によるインフレ格差拡大を通じて、外需依存から脱却するほうが好ましいとも言える。中国と米国のインフレ格差が拡大するということは、名目上の人民元レートが固定されていても、実質的に人民元高になっていることに等しい。2009年の初頭からみると、人民元は対米国ドルに対して実質的には17%も上昇している(名目レートは4%上昇にとどまる)。
インフレが手をつけることができないほどに加速するという懸念もあるが、このような悪い状況に陥るためには、単に賃金上昇だけではなく、財政支出の急激な膨張などが必要となるが、中国はこの点、非常に慎重である。ただ現在の中国の預金金利は、実質的にマイナスなので不動産投機などに流れ出しやすく、資産バブルを生み出す恐れがある。この点、預金金利の引き上げも欠かせない。