米国の医療制度改革

Reforming American health care : Heading for the emergency room (The Economist)
非常におもしろい記事。意外な事実が書いてある。米国の医療費は対GDP比で見て、他国より突出して高い。その割には必ずしも米国人は寿命が長いわけでもないし、乳児の死亡率が低いわけでもない。支払った金の代わりとして十分な価値を得ていない。高齢化が進む中、現在ですでに医療費が高くなっていると今後どうなってしまうのか、この不安感が医療制度改革の原動力となっている。医療費が高騰しているのはなぜか。よくいわれるのが、米国のベビーブーマーが高齢化して多くの医療サービスを必要とするようになったとか、製薬会社が薬価規制がないことをいいことに価格をつり上げて暴利をむさぼっているとか、医師の給与が高いとか、などといった原因である。しかしこれらのすべては神話でしかなく、現実とは異なっている。米国の医療費が上昇しているのは、ゆがんだインセンティブにより、保険会社・患者・医療サービス提供者ができるかぎり多くの医療サービスを消費するようになっているためである。医師や病院は提供したサービスの分だけ金がもらえるので、医療サービスを抑制する理由を持たない。患者もそうである。保険に加入している場合、自己負担が低いので多くの医療サービスを消費しても懐はあまり痛くならない(このあたりの説明はあまり納得できないところではあるが)。保険会社は医療費を抑制するインセンティブを有していそうな気がするが、実際には保険会社は医療機関からきた請求書を企業に回すだけなので、医療費がふくらんでもあまり利益は抑制されない。それどころか、医療費が増える方が、企業に請求する管理費用が増えるのでありがたいことになる。請求書を回される企業も、従業員に提供する健康保険は税控除の対象になるので負担感は軽くなる(もちろん我慢の限界はあるが)。インセンティブをうまく誘導して医療費を削減するには、提供しただけいくらでも金がもらえるという仕組みではなく、提供したサービスの効果に応じて報酬を支払うといった制度にする必要がある。
もう一つの医療費高騰の原因としては、医療サービス提供者側での寡占がある。病院のM&Aが進み、寡占状態になり、価格競争が押さえられている。規制により新規参入も妨げられている状況だ。医療費の抑制を実現するには、連邦政府レベルで医療サービス業界の競争を促進させる必要がある。