鬱の進化論上の意味

The evolutionary origin of depression : Mild and bitter (The Economist)
進化医学から見た鬱病。この記事に登場するランドルフ・ネシー教授は「病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解」(ASIN:4788507595)の著者だろう。だいぶ前にこの本を読んだが、鬱病については触れられていなかったと思う。改訂版が登場すれば鬱病に関する記述も含まれるのかもしれない。
肉体における痛みが、それ以上痛みを発する部位を動かすことをやめさせるという一種の警告となっている。鬱病にまでいかないものの、ちょっとした気分の落ち込みも、無茶な目標をあきらめさせるために一種の警告として発せられているのではないかというのが教授の仮説だ。これは実験によって妥当性が裏付けられつつある。気分の落ち込みにより目標をあきらめることが可能になっているし、簡単に物事をあきらめることができる人は、ひどい鬱状態にはなりにくいという。アメリカでは鬱病患者が多いが、これはアメリカにおける価値観、「成功するまでがんばり続ける」が早期警戒信号である気分の落ち込みを無視し、がんばり続けさせることになり、結果的に鬱病になってしまうのではないかという。簡単にあきらめてしまうようだと、精神衛生上はよいのかもしれないが、社会的に成功するのが難しくなる。両方のバランスをとることは難しそうだ。