疫病と世界史 上 / ウィリアム・マクニール

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

疫病と世界史 上 (中公文庫 マ 10-1)

上巻を読了。小見出しがあればもっと読みやすいのだろうなと思う。英雄が登場しない世界史である。歴史の本なのに人名がこれほど登場しないのも読んだことがない。英雄という人を中心にした歴史のほうが面白いのかもしれないが、病気を中心にした歴史のほうが将来を予測する上で役に立つのかもしれない。歴史を学ぶ意義というのも将来に役立てるためだと思うし。
マクロ寄生とミクロ寄生のバランスがどのように維持され、均衡状態が破壊された場合にはどのように回復するのかを述べているのだが、これらを読んでいるといずれもパターンは似通っているように感じる。
上巻の後半ではペストの伝播の歴史が中心となるが、実に様々な要因が影響を与えていることに驚く。反対にペストによる大量の死者の発生も大きな影響を与えずにはいれられなかった。ヨーロッパの場合、ペストによる死者の急増はキリスト教に対する不信感を増大させ、後の宗教革命につながるとも指摘されているし、イスラム教ではペストも神の仕業であるとの認識から積極的な対策が講じられることはなかった。
仏教とキリスト教は、いずれも病気の発生率が高い場所、つまりインドと中近東の都市(エルサレム、アンティオキアなど)で発展してきただけに、病気による突然の死を人間の生の大きな側面として扱わざるを得なかった。この点が疫病の蔓延で苦しむローマにうまく浸透できた理由の一つとも考えられるという。