項羽と劉邦〈中〉/ 司馬遼太郎

項羽と劉邦(中) (新潮文庫)

項羽と劉邦(中) (新潮文庫)

中巻を読了。読み出すとやめられなくなる。「ローマ人の物語」のような著者による人物批評が楽しい。塩野七生ほどの手厳しさはないが。

様々な面で優れていた項羽劉邦に負けてしまう様子を見ると(中巻ではまだ負けていないが)、指導者の資質とは何か考えてしまう。下手に才能がある人物のほうが、自らの才能におぼれてしまうのかもしれない。項羽と比較すると劉邦は、驚くほど謙虚であり、無邪気でもあった。懐が深い。自分の能力を他人に否定されてもその通りだと頷いてしまうような人物なのだ。そこが才能ある人物を引き寄せる磁石になっていたのだろうか。
才能ある人物が引き寄せられてきたということは、人材の流動性が高かったことを意味する。多くの知識人が、自らのアイデアを売り込もうと様々な国を旅行していた。独立自営のコンサルタントのようなものだ。血統に関係なく個人の力量が問われる時代だったと言える。戦国時代であるから、本当に力があるものを登用しないとやられてしまうわけだが。
成果を上げた人物に対してどのように報いるか、この点も指導者の力量が問われる場面である。公平ではないと受け止められると、離反してしまいかねない。この点で項羽は失敗を重ねることになる。
兵站を重要視していたのも劉邦の長所だった。自らに戦の才能がないと冷静に認識していたが故に、常に食糧の確保を念頭に置いていた。反対に項羽兵站といった裏方の作業は、部下に任せておけばよいと考えるたちであった。