進化と人間行動

進化と人間行動

進化と人間行動

読了。多くの研究を圧縮しているのでお腹がいっぱいという感じ。話のネタになるような話題もきわめて多い。
進化理論は文系と理系を橋渡しするものだとの主張もあるが、確かにそんな気がしてきた。この本は文系にも理系にも分類できない。進化理論というコンパスを用いることで、より深く人間を理解することが可能になるとの力強いメッセージがある。

血縁淘汰の理論からは、殺人者と被害者の血縁度は低いと想定され、外国ではその想定通りになっているらしいが、日本では逆らしい。親類同士の殺し合いが多いらしいのだ。
また継子が邪険に扱われるというのも血縁淘汰で説明できる。カナダでの統計を調査したところ、継子の殺害率は実子よりも40倍も高かったという。日本でも最近は児童虐待のニュースが多いが、何となく継子が虐待されているケースが多いような気がしていた。ライオンの子殺しを連想していたのだが、人間にも同じような行動が見られるとは。人間も動物なのだということを再度認識させられる。

兄弟の中で順位(長子か末子か)が性格に与える影響について書かれた箇所もあった。長子のほうが両親に従いやすく、権威的になり、末子のほうが反逆的になる傾向があるという。科学者を分析したところ、世の中をひっくり返すような理論を打ち出したのは末子である確率が高かったという。さらに面白いのが、長子と末子の間に生まれた子供だ。このような子供は家族に対する帰属意識が低いという。妻にこのことを話したら、知り合いの3人姉妹はまさにこの通りだと納得していた。

雄と雌の体の大きさを分析すると、人間では当たり前のことだが雄のほうが大きい。しかしゴリラほど極端に大きいわけでもない。一夫多妻制の動物のほうが、雄が雌よりも大きくなる可能性があるという。雌の獲得をめぐる雄同士の戦いが激しいためだ。このことから人間も一夫多妻制の傾向はあったものの、実際に様々な文化を調べても、それほど一夫多妻制は広まっている訳ではない。一夫多妻制を採用している文化でも、実際に複数の妻を抱える男性は少ない。複数の妻を抱えていると多くの子供が生まれる訳だが、人間は父親も育児に投資をするために、それほど多くの子供の面倒を見きることができないのだ。極端な一夫多妻制は、農業が始まってからのものではないかと指摘している。狩猟採集民だった頃と異なり、農業を開始してからは特定の人に富が蓄積しやすくなったためだ。その結果、多くの妻を抱える余裕が生まれてきたのではないかと見る。

女性の性的魅力に関する考察も面白い。人類の若い女性のウェストはなぜくびれているのかという疑問から、ウェストとヒップの比率が女性の性的魅力に影響を与えているのかという研究にいきついた。ほ乳類のなかでウェストがくびれているのはヒトの女性だけらしい。ヒップが大きい(骨盤が大きい)のは繁殖力の高さを示すものであり、それが単に太っているというごまかしのメッセージと区別するために、ウェストが細いという特徴が現れたと考えられる。西欧文化の影響が強い地域では、ウェストとヒップが0.7の比率が最も性的魅力が高いと判断されるらしい。しかしハリウッド映画の影響も性的魅力のイメージに大きな影響を与えていると考えられるので簡単に結論を出すこともできないようだ。