アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

読了。あっというまに読み終わった。
マネジドケアの定義として、「保険会社が患者の医療サービスへのアクセスや医師・病院が施す医療サービスの内容を管理・制限する一方、医師・病院に財政的リスクを転嫁することで医療費の抑制を図る医療保険の仕組み」としている。
またマネジドケアを車両保険にたとえている。車両が壊れた場合には保険会社が指定する査定人が調査し、修理代を算出し保険会社が指定する修理工場で修理する。マネジドケアもこれと同じだという。保険会社が指定した医者にしかかかることができず、どの程度の治療が必要かという点に関しても保険会社の発言力が大きい。車の場合は修理するよりも新車を購入するほうが安い場合は、廃棄処分にするが、人間の場合はそんなことはできない。しかしこのようなことをやろうとした保険会社もあったという。治療費がかさむ一方で助かる可能性もないので治療打ち切りを通告したケースがあったらしい。この場合は政治問題になり撤回されたというが。
マネジドケアの登場の前に、メディケアの診察報酬の支払方法の変更があった。出来高制(提供した医療サービス全部の料金を政府が支払う)から、疾病別に支払額が決められたのだ。この方法の下ではできる限り安いコストで治療を行おうとするインセンティブが働く。その結果、入院日数が大幅に減少したらしい。そのため病院の稼働率も低下し、ベッドを埋めるためにマネジドケアのようなコストの厳しい顧客とも取引せざるを得なくなったのだ。また病院の宣伝も活発になる。
医療不信により、代替医療の人気が高まっているとの指摘もある。健康食品の売上が増加しているのもこの一環だ。メラトニンの紹介もあった。ニューヨークにいった際に、購入したが確かに飲むと眠くなる。天然の睡眠薬と呼ばれるだけある。プラシーボ効果かもしれないが。。
患者に自分の病気を学習させるための支援を行う病院も増えているらしい。患者の学習に医師が追いつけない場合もあるというので驚きだ。医療情報のサイトへのアクセス数はポルノサイトを上回っているとの結果も紹介されている。
高騰を続ける薬剤費で苦しむ患者たちの現状を読むと、薬品価格へのコントロールが存在しないのが果たして社会にとって有益なのか考えてしまう。製薬会社は高い薬品価格は研究開発投資がかさむために仕方がないと主張しているが、前に読んだ「ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実」(ASIN:4884122623)では製薬会社の新薬開発は税金が投入された大学での研究開発に依存しているとの指摘もあり、本当に多額の研究開発投資が行われているのか疑問も感じる。薬品価格の上昇に対抗して、患者たちもカナダやメキシコなどの隣国で薬品を購入するといった自衛手段を講じている。薬品価格の上昇がもっとも大きな打撃を与えるのが低所得層であり、逆累進性となっているとの指摘もある。低所得層は保険料が高いために保険に入ることができない、もしくは加入できても自己負担額の大きな保険にしか入ることができない。保険に入っていない人は定価で薬を購入せざるを得なくなる。保険会社は巨大な購買力を通じてディスカウントを製薬会社より獲得することができるためだ。このような構図のもと低所得者への負担が増すことになる。

医療のグローバルスタンダードは市場原理やマネジドケアではなく、トランスペアレンシー(透明性)やアカウンタビリティ(説明責任)だという。



麻酔がなかったときの手術は悲鳴の中で行われるのが常で、悲鳴が聞こえないように手術室が屋上に作られた病院もあったという。怖い話だ。麻酔がなぜ効くのかはよくわかっていないという話をだいぶ前に聞いたことがある。そのためひょっとして自分は麻酔が効かない体質なのではないかと思っていた。しかし正月に内視鏡検査を受けた際に全身麻酔(?)に近いものを受けて、確かに麻酔が効くことは分かった。