アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

アメリカ医療の光と影―医療過誤防止からマネジドケアまで

読み始める。医者向けの本なのかもしれないが読みやすい。米国の医療制度に関してはわかりやすい解説も多く含まれているのがありがたい。
最初は医療過誤の問題から始まる。詳しくは述べられていないが著者の母も医療過誤で亡くなっているようだ。医療過誤の歴史は医者の歴史とともに始まる。当たり前かもしれないが、医者も人間である以上ミスは避けられない。驚いたことにハムラビ法典には医療過誤を犯した医者に対する罰則が定められている。医療過誤で目を失わせた医者は両手を切り落とされることになっていたようだ。
医療過誤に対して、米国の医学界はどのように対処してきたかという歴史が紹介されている。最初は医療過誤を公にせずに隠蔽しようとする態度が強かったが、大きな事件が相次ぐ中で医療不信が高まり、本腰を入れて医療過誤対策に乗り出すことになる。問題に対する取り組み方法として感心したのが、ミスを犯した医師や看護婦など個人を責めるのではなく、システム全体の問題をあぶりだすということに焦点が置かれていることだ。本書で紹介されている病院でもミスした医師に対しては処分を行わないという対応を取っている。個人の不注意という点に注目すると「もっと注意しましょう」といった精神論で問題を解決しようとする風潮につながってしまう。このような問題を排除するために、個人ではなくシステム・組織運営上の問題に焦点が当てられる。
米国における医療過誤の調査の中には、医療過誤により亡くなった患者の数は、交通事故での死亡者数の倍以上という結果というものもあるようだ。さすがにこれは医師会から調査方法に問題ありと批判されたらしいが。

だいぶ前にWSJにも掲載されていたが、医療過誤においては正直に患者や遺族に謝罪するという風潮も広まっているという。法的な責任追及を恐れてかたくなに医療過誤を否定すると、結果的に訴訟になり莫大な賠償金の支払いになりかねないという懸念も大きいらしい。

著者は米国の医療過誤対策には好意的な評価をしているように見えるが、反対にマネジドケアに対しては否定的な評価になる。米国株関連の仕事をしていてマネジドケアという仕組みを知ったときにはかなり感心したものだが、問題が山積している現状はメディアの記事を見ていても良くわかる。何でも市場原理を持ち込めば良いというものではないなというのが現在の感想だ。
医療制度をどのように設計するか、なかなか難しい問題だ。質の高い医療を提供するというインセンティブを医者に与えつつ、コストをどのように抑えるか、最適なモデルはまだ存在しないように見える。米国の様子を見ると日本の医療制度のほうが患者にはありがたいように見えるが、国家が大きな負担を抱えているわけで社会全体のコストは大して差はないのかもしれない。医療費の対GDP比が日米でどの程度異なるのか調べてみたい。