破天荒!―サウスウエスト航空 驚愕の経営

破天荒!

破天荒!

すでに半分程度読んでしまった。残念なことにページに書き込んだ形跡がある。鉛筆なので何カ所かは消しておいたが。。
サウスウエスト航空の企業文化を紹介した本。同社のカリスマCEOがケレハー氏だ。本書ではCEOのカリスマ性は否定しないものの、同社を同社たらしめている企業文化は組織の隅々にまで浸透しているために経営陣が交代しても変わることはないだろうと見る。
同社を貫いている価値観や企業文化といった精神的なバックボーンは創業時の苦しい経験に由来しているようだ。同社は低価格でテキサスの大都市間を結ぶ航空サービスを提供する目的で創業したが、既存の航空会社は徹底的な妨害活動に乗り出した。そのため創業しても4年間は営業することもできず、訴訟費用のみがふくれあがっていくという危機的な状況にあった。何とか営業にこぎ着けても、体力に勝るライバル会社は様々な攻勢を仕掛けてくる。財務的な体力に劣る同社は、従業員の熱意や想像力をフルに活用して苦境を乗り切るしかなかったのだ。
同社では文字通りの家族主義が徹底されている。会社に入社するというよりも大きな家族に参加するようなものらしい。家族のメンバー(社員)は同じ目標を共有しているために、経営陣も社員を信頼して大幅な権限委譲を行うことができる。そのため末端の社員でも規則などに縛られず臨機応変に周囲の状況の変化に対応できるのだ。失敗することも確かにあるが、たまにある失敗のコストよりも社員が自由にリスクに挑戦し、創造性を発揮することのメリットが遙かに大きいと経営陣は判断している。
大きな家族に属しているという意識は、自分の利益を犠牲にしても他の社員を助けるという行為に結びつく。会社の歴史を追体験できる演出もオフィスに満載されている。パーティーの社員や新聞記事、顧客からの手紙などがオフィス中に貼られているのだ。少し前に、New York Timesの記事でサウスウエストを取り上げたものがあった。創業当時の社員の多くは持ち株制度により大金持ちになっているが、早期退職(アーリー・リタイアメント)する社員は少ないというものだった。家族の一員という意識が強いということは退職は家族と縁を切るようなものだし耐えられないのだろう。(http://d.hatena.ne.jp/ichiyu/20060521/p5)
同社の企業文化で高い比重を占めていると思われるのが、コスト削減へのこだわりだ。徹底的に無駄を省く。業務効率の改善により飛行機が空港に止まっているのが10分程度だというから驚きだ。10分程度で燃料や食料の補給、お客を送り出し、新しいお客を迎え入れるのだ。F1のタイヤ交換並の作業体制で臨んでいるらしい。パイロットは常に燃費を気にしている。天候や風向きに応じて飛行高度を選びできる限り燃料費を節約しようとする。同社には座席指定がないので早い者勝ちで好きな場所に座ることができる。これもスタッフの負担を減らすためのものだ。また社内で利用するパソコンは自分たちで組み立てる。チケット発行用のATMでさえ社員の自作という徹底ぶりだ。なんかGoogleを思い出した。
ラブという言葉が社内にあふれているというのも非常に印象的。株式のティッカーもLUVだ(LOVEではないのは同社がNYSEに上場しているからだろう)。愛されていると感じられないと他人を愛することもできないというのがポリシー。そのため同社では従業員が一番大事で、その次がお客という順序になる。
同社がIPOを行ったのは1971年。そのときにはまだ運行を始めていなかった。それでも公募を行うことができたという事実に驚かされる。

400ページ以上と結構ボリュームがある本だが、冗長な印象を受ける。同じことを繰り返し書いているような気がする。半分程度に圧縮できるのではないかと思ってしまった。
過去のダイアリーを検索しているとhttp://d.hatena.ne.jp/ichiyu/20051103/p5が見つかった。

サウスウエストのような企業文化が日本でも成立しうるのか。たしか山本七平は、日本における組織は共同体としての性格を有さないと機能しないと書いていたような気がするが、日本企業における家族主義と呼ばれるようなものと、サウスウエストではなんか違うような気がする。



この手の企業の歴史は読んでいて面白い。サウスウエスト航空と同じように波瀾万丈な企業で、この手の本で取り上げて欲しい企業として、クアルコム(Qualcomm)がある。携帯電話の規格であるcdmaONEを開発した会社だ。固定地間の無線技術として誕生したCDMAをモバイルに転用するのに、訴訟騒ぎを含むかなりの苦難を強いられていた(はず)。だいぶ前にBarron'sで特集が組まれていたのだがかなり興味深い社史だったと思う。「テレコズム―ブロードバンド革命のビジョン」(ASIN:4797318392)にも載っていたかもしれない。アマゾンで見たら絶版になっている。すばらしい本なのに。