なぜ資本主義は暴走するのか―「株主価値」の恐るべき罠

なぜ資本主義は暴走するのか―「株主価値」の恐るべき罠

なぜ資本主義は暴走するのか―「株主価値」の恐るべき罠

引き続き読書中。経営者に大量のオプションが供与されたことにより、株価上昇への圧力がますます高まってきた様子が描かれている。報酬の一部としてオプションを経営陣に提供することは、株主と利害関係を一致させることになるので、株主にも有利であると考えられていた。しかし経営陣は結局、ただでオプションをもらっていることを考えると、株価が下落しても失うものはないのだ。しかも株価が下落した場合は、安い行使価格のオプションをもらうことができた(一般株主はそういうチャンスはない)。まさにコインの表が出れば俺の勝ち、裏が出ればもう一度やる」といった具合だ。
株価を安定的に上昇させるために、利益をコントロールするようになってきた実情も指摘している。引当金デリバティブを駆使して利益を恣意的に操作するようになったのだ。監査法人も、コンサルティングという魅力的な付加サービスに目がくらんで、監査の面ではどんどん危ない橋を渡るようになってしまった。
創造的会計(creative accounting)という単語が出てくる。会計の世界ではCreativeという形容詞は良い意味ではないというのが面白い。利益をcreateすると意味なので粉飾決算のような意味合いで使われるからだ。
しかし本書で述べられている米国企業の経営陣の報酬は異常だと思う。「指導者の条件」で述べられているように、擬似的な血縁関係に類似した日本の企業では経営トップと平社員との給与格差は小さくならざるを得ないだろう。それが長期的な業績にどの程度寄与するのかはなんとも言えないが。
本書で述べられている出来事は、WSJを読んでいれば大部分は分かるのではないだろうか。うまくまとめているのが大きなメリットだ。