生きるための経済学―〈選択の自由〉からの脱却

生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却 (NHKブックス)

生きるための経済学 〈選択の自由〉からの脱却 (NHKブックス)

読了。面白い。今年のベスト本に入るだろう(昨年ほどは読む量が増えないと思うが)。
学問とは、盲点を共有することで定義されると指摘しているがなかなかうまい定義だと思った。経済学においてはこの盲点は物理学の法則に反する前提条件となっている。
選択の自由という思想が、失楽園(アダムとイブがエデンの園から追放される)にまでさかのぼるというのも意外だった。選択の自由はすばらしいように思えるがこれが人々の苦しめる原因になっているという。というのも数多くの選択肢から自分の責任で選ぶのは極めて困難な作業だからだ。意識的に選択するという行為ばかりではなく、無意識のうちに選択してしまった場合もあるし、選択の結果発生する出来事に関して正確に予測することも不可能だからだ。
孔子の教えには「選択」という概念がないという指摘も面白い。孔子が説く「道」は、西洋的な考えと異なり、分岐点が存在しない。一本の道が存在するだけだ。道を歩むのか踏み外すのかいずれしかない。

選択の自由(選択肢の数を増やす)を獲得するために、エリートコースを進むという圧力が子どもたちにはかけられるが、これが本当に選択の自由を増すのかという疑問も出される。エリートコースに乗ってしまうと、このコースから外れるのが恐ろしくなり逆に選択の自由が減少してしまうのではないかという。お金を貯め込むことも同じだという。お金とは選択肢でしかないからだ。

非常に面白い本だが、けっこう重い部分もある。この著者の本は個人的な経験が含まれている箇所があり、読者にはすこし負担だ。この本でも自分は2度結婚して2度離婚、1回目は花嫁が結婚式当日に頭がおかしくなり破談、2回目は自分の頭がおかしくなりそうだったがなんとかこらえて結婚し10年以上ハラスメントに苦しむことになったといった経験が語られている。