- 作者: 木下清一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/09
- メディア: 新書
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この本を読むと、心の発生は極めて希な現象に思えてくる。単に神経系が進化しただけでは心の発生にはつながらない。離散的な出来事を統合して経験というものに変換するには「統覚」という機能が生まれてくる必要があった。この統覚がなければ時間や空間を意識することもできないだろうという。
最後には心の世界の危機を救うのは「愛」という話になってしまうのだが、心の世界に入れ子になった別の世界が登場するとすればそれはどんな世界なのか、まったく分からない。また物質世界も何か別の世界に入れ子になっているのだろうと思うが、その世界はどんなものなのか。
人間は胎児の間に、生物としての進化を圧縮して通り過ぎてしまうらしい。えらや尾が一瞬だけ存在するという。ただ心はそういう訳にはいかない。先祖の心を受け継いだ状態で生まれてくることはできないのだ。そのため教育が必要になってくるのだが、過去から学ぶことが難しいことは明らかだ。このような心で構成された社会は一層脆弱性を帯びてしまうと言う。これが心の世界の危機につながるというのだが、人間の道徳も明らかに進歩していると思うし、心もある程度遺伝するではないか。「人間の本性を考える」(ASIN:4140910100)を読むとそう思える。
「生物と無生物のあいだ」(ASIN:4061498916)でも紹介されていたが、シュレーディンガーの「生命とは何か」(ASIN:4004160804)がこの本でも登場しており、さらに読んでみたくなった。アマゾンのマーケットプレイスではとんでもない価格になっているので図書館で借りるしかないか。予約しておく。