心の起源 生物学からの挑戦

心の起源―生物学からの挑戦 (中公新書)

心の起源―生物学からの挑戦 (中公新書)

読了。心の起源なんて大仰な題名だが、題名に偽りなしだ。今年のベスト本の候補だ。非常に刺激的でスケールが大きい。各章にまとめがついているのもありがたい。この本の中では世界を物質世界・生物世界・心の世界の3つに区分し、それぞれが入れ子の状態になっていると指摘している。つまり物質世界の中に生物世界が存在し、生物世界の中に心の世界が存在することになる。そのため心の世界は生物世界の制約を受けつつも(心は個体が死んでしまえば無くなる)、新たな次元を切り開くことになった。世界から別の世界が生まれてくる割れ目(特異点)として、物質世界の場合はビッグバン、生物世界の場合は核酸の登場、心の世界の場合は「統覚」の登場とされている。
この本を読むと、心の発生は極めて希な現象に思えてくる。単に神経系が進化しただけでは心の発生にはつながらない。離散的な出来事を統合して経験というものに変換するには「統覚」という機能が生まれてくる必要があった。この統覚がなければ時間や空間を意識することもできないだろうという。
最後には心の世界の危機を救うのは「愛」という話になってしまうのだが、心の世界に入れ子になった別の世界が登場するとすればそれはどんな世界なのか、まったく分からない。また物質世界も何か別の世界に入れ子になっているのだろうと思うが、その世界はどんなものなのか。
人間は胎児の間に、生物としての進化を圧縮して通り過ぎてしまうらしい。えらや尾が一瞬だけ存在するという。ただ心はそういう訳にはいかない。先祖の心を受け継いだ状態で生まれてくることはできないのだ。そのため教育が必要になってくるのだが、過去から学ぶことが難しいことは明らかだ。このような心で構成された社会は一層脆弱性を帯びてしまうと言う。これが心の世界の危機につながるというのだが、人間の道徳も明らかに進歩していると思うし、心もある程度遺伝するではないか。「人間の本性を考える」(ASIN:4140910100)を読むとそう思える。

生物と無生物のあいだ」(ASIN:4061498916)でも紹介されていたが、シュレーディンガーの「生命とは何か」(ASIN:4004160804)がこの本でも登場しており、さらに読んでみたくなった。アマゾンのマーケットプレイスではとんでもない価格になっているので図書館で借りるしかないか。予約しておく。