認められたい!―がぜん、人をやる気にさせる承認パワー / 太田 肇

読了。ハードカバーだったので読むのに時間がかかるかと思ったがすぐに読み終えた。「ホンネで動かす組織論」(ASIN:4480061649)と同じ著者の本。従って内容も重複している。「ホンネで動かす組織論」も面白かったが、この本のほうがさらに面白い。
この本では組織論というよりも、人間が持つ承認欲求(名誉欲とも言える)を肯定的に評価することが中心となっている。日本では名誉欲はタブーとして見られ、あからさまに表に出すことは控えられる。金銭欲と異なり、名誉は上下関係が明らかになってしまうという側面があるためだ。このようなタブーがあるために、アンケートでも外国と比較して名誉を求める欲求は目立たない。代わりに自己実現といったものが上位にくることになる。上位に出てこないからといって、日本人が名誉欲に無縁かというとそうではない。嫉妬や足の引っ張り合いは名誉欲の裏返しだし、自己実現の裏側にも他人から認められたいという意識があると考えられる。

名誉を求めるのは、決して悪いことではなく、それを企業を発展させるほうに生かすことも可能だ。ただ会社の中での出世競争は、一握りのエリート社員に限定されてしまう。競争から脱落すると復活することは難しいためだ。会社が用意できる役職に限界がある以上、社員を相対的に選別するしかないという問題もある。出世競争から脱落した社員は、開き直って会社にぶら下がる存在と化してしまう可能性もある。では脱落した社員の承認欲求をどのように満たすべきなのか。(必ずしも社員にとっては社内で承認欲求を満たす必要はない。地域社会や趣味のサークルといった他の集団で満たすことも可能だからだ)

名誉という物差しを会社の役職という単一のものに求めるのは限界があるので、社外(世間)で承認欲求を満たすことを提唱している。世間には様々な尺度で評価する人がいるために、多くの人が「自分が一番」と思うことができる。これは自己愛かもしれないが、他人との無益な争いを回避する方法でもある。ただ、社外で承認欲求を満たすための方法としては、個人名を積極的に出すこと程度しか紹介されていない。ただ名前を出しても仕事内容における個人の裁量の余地が小さい場合はうまくいかない可能性も高い。

承認欲求を生かすべきということは分かったが、それをどのように社内で展開していけばよいのか、まだまだ手探りが続きそうだ。


成果主義がなぜ失敗するのかという問いに対する答えも納得させられる。そもそも評価自体が主観的であり、社員が不信感を持っていることが挙げられる。これ自体は特に意外でもない。面白いのが、承認欲求との関係にある。成果主義では、給与や役職が低いと能力や業績が劣ると見なされてしまう。そのため評価に対して不満が出やすい。逆に年功制のほうが、役職・給与と能力が切り離されて受け止められることが可能になる。


この本を読んで思いついたのだが、明らかに、ブログは世間での承認欲求を満たすための方法だろう。

フロー理論では、他者による承認は求められなかったと思うが、人間が幸せに生きるためには他者による評価は欠かせないのかもしれない。