「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

読了。まだ今年になって1ヶ月も経っていないが今年のベスト本には当選確実。「セイヴィング キャピタリズム」(ASIN:4766411684)との関連で読み始めたのだが、「セイヴィング 」よりもバランスがとれているといった印象だ。「セイヴィング 」は資本主義万歳という全面的な肯定が全編にわたって描かれているが、「豊かさ」のほうは、もっとバランスが取れている。当初は「豊かさ」も右派の立場で書かれているのかと思ったが、最後のほうに進むにつれてよりリベラル色が強くなってくる。
持続的な経済成長を実現する4つの要因が備わると、豊かさを達成することができるのだが、これが「幸せ」につながるのかという疑問にまで議論を進めているのが意外であり、大胆な試みだと思った。物質的な豊かさは、ある程度までは幸せにつながる。しかし幸せかどうかは、物質的な豊かさが隣人と比較してどうなのかという観点に大きな影響を受ける。富の分配が不平等な社会は幸せを感じなくなるようだ。スカンジナビア諸国のように強力な所得再配分カニズムも社会全体の幸せを引き上げる可能性もあるが、経済成長を鈍化させる欠点もある。米国のように所得の再配分メカニズムを最低限にすることで、幸せよりも成長を優先させることも可能だ。この両極端の間でどのようなバランスを実現するのかが問題になる。

経済成長を実現するからこそ、民主主義は実現される(逆ではない)という指摘は、アメリカのイラク政策の問題点を示しているような印象を受ける。政治的自由を抑圧している中で、持続的な経済成長は達成できないのではないかと考えていたのだが、案外、中国のやり方は理にかなっているのかもしれない。将来、どのように民主化への道を歩むのか興味深いところだ。


本当に中身がぎゅっと詰まったいい本である。


ポール・ケネディの「大国の興亡」(ASIN:4794204914)やキンドルバーガーの「経済大国興亡史」(ASIN:4000227289)なども読みたくなった。「大国の興亡」は大学生の頃に読んだがほとんど覚えていない。