自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学

自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学

自分を知り、自分を変える―適応的無意識の心理学

今年読んだ本のランキングをつけるとしたら、かなり上位になりそうな予感。「第1感」(ASIN:4334961886)よりも学術的な感じ。単に興味深いエピソードを並べるだけではなく統制された環境の下での試験結果を示すことで、信頼性を高めている。「第1感」の著者のマルコム・グラッドウェルもこの本を参考にしていると思う。本文の中にもある記者が取材に訪れたという記述があるがこれはグラッドウェルのことなのかなと思った。
「自分を知り、自分を変える」という題名を見ると自己啓発本のような印象も受けるが、ノウハウ本ではないことは確か。
無意識が人間の感情や行動に大きな影響を与えていると主張している。意識は心という氷山の一角と言うよりも、氷山の上に乗っかった雪玉に近いという。それほど無意識が心に占める比率は大きいのだ。自動操縦のジェット機のように、「意識」というパイロットの助けを借りなくても無意識が効率的に運転してくれるのだ。フロイトは無意識を抑圧と関連づけたが、現在では効率性と結びつけてとらえられている。
単にただ無意識という一つの心の実体があるのではなく、複数のモジュールで構成されていると考えられる。
無意識ではなく、「適応的無意識」(adaptive unconscious)としているのは非意識的な思考が進化による適応であることを伝えようとしたものらしい。環境を即座に非意識的に評価、解釈し、行動を引き起こすことは生存に有利なために進化が起こったと考えられる。たぶん適応的無意識が最初に存在し、そこから意識が生まれてきたのだと思う。
しかしこの「適応的無意識」を自覚することは難しい。この分野には意識がアクセスできないように進化しているのだ。そこに内観の限界がある。内観は意識できる範囲にしかアクセスできないためだ。あたかもCDで再生される音楽を知覚することはできても、ハードウェア内部でどのように処理されているのか分からないといったような感じだ。



非意識的に学習する能力として興味深い事例が載っている。手術中にすぐに回復できるという暗示をかけられた全身麻酔の患者は、麻酔中に何を言われたのかという意識的な記憶がないにもかかわらず、暗示されなかった患者よりも早く退院したという。