人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

人間の本性を考える ~心は「空白の石版」か (下) (NHKブックス)

昨日読了。最後は芸術がテーマになる。心は「空白の石版」ではないという著者の主張から分かるように、美的感覚も心の中に埋め込まれていると論じる。生後数ヶ月の赤ちゃんでも平凡な顔よりも美しい顔を長い間見つめるという。

芸術は実際的な機能を何も持っていない。そのため芸術はステータスの誇示とも大きな関連を有している。昔から芸術は手っ取り早く体面を整えたがる成金に保護されてきたという歴史がある。

芸術を作り出そうとする衝動は、一種の配偶戦術、すなわちセックスや結婚のパートナーとしての有望な相手に自分の脳の質の高さを印象づけ、ひいては間接的に遺伝子の質の高さを印象づける一種の方法だと考える学者もいる。

芸術家にとって問題なのは、大衆文化の質が低すぎることではなく、逆に高すぎることだと指摘しているのが面白い。芸術はもはや希少性や作品そのものの卓越性によっては人に名声を与えることができなくなり、鑑賞力の希少性によってそれをあたえなくてはならなくなった。その結果、理論が芸術を乗っ取ることになってしまった。技術には詳しくはないが、モダニズムポストモダニズムという運動では、「美」とは学習されたものととらえているらしい。

この著者の本をもっと読みたくなった。文学作品や漫画・ポップカルチャーからも多くを引用し、人間の本性を探っていく様子を見ると、この著者の博識ぶりがよく分かる。ほかには「言語を生みだす本能」(ASIN:4140017406)と「心の仕組み~人間関係にどう関わるか」(ASIN:4140019700)が発売されている。図書館で借りるか買うか。