偽薬のミステリー

偽薬のミステリー

偽薬のミステリー

面白い。読みながら吹き出してしまった箇所もある。この本も紀伊国屋書店が発行したもの。紀伊国屋書店の本は読み応えあるものが多い。数量化革命やユーザー・イリュージョン、神々の沈黙もそうだった。
偽の薬を患者に渡すだけではなく、偽の手術を行ったケースも紹介されている。この場合には正しい手術を行った場合と、偽の手術を行った場合では違いが生じなかったらしい。
温泉療法の効果に関しても興味深い。クリティカルシンキングの「同時進行の原因」を連想させる。温泉に行って病気が治るのは、入浴している温泉の成分が原因ではなく環境の違いによるものではないかという指摘。確かに場所を変り食事を変化させ空気も良いところにいれば、温泉そのものはどうでもいいのかもしれない。

薬の成分以外にも薬の名前や形状も効き目にかなりの影響を与えるようだ。そのため製薬会社はもっともらしい名前を見つけるために苦労している。ゾロ薬が名前が良くないために効果が劣るとの指摘もある。睡眠薬ネムクナールといったような名前をつけるのは日本だけではないようだ。薬剤の色も大きな影響も持つ。緑色は精神を安定させる薬で利用され、赤や黄色は刺激を与える必要がある薬で用いられ、栗色(茶色?)は下剤で用いられる。大きな錠剤よりも小さい錠剤のほうが大きな効果を患者に印象付けやすいという。
ビッグ・ファーマ(ASIN:4884122623)では製薬会社が一般消費者に対して処方薬の宣伝を行うことを批判していたが、このようなプラセボ効果を読むと、CMが患者を暗示にかけてしまう効果があるのかもしれないと思った。



処方箋そのものも大きな効果がある。また診察そのものもだ。場合によっては医師は自らを先生と呼ばせることもあるが、これも自らに対する信頼感を高め、治療効果を引き上げるのが狙い。医師が免許状や卒業証書などをオフィスに貼り出すのも同じ。確かにこの前内視鏡検査を受けた診療所でもやたらと飾っていた。
同じ治療を施しても高名な医師と普通の医師では効果が異なるというのも面白い。治療費用の金額自体も効果に影響を与えるという。これはフロイトも指摘している。またクレジットカードや小切手よりも現金で支払わせるほうが効果があるというから驚きだ。

製薬会社の営業マン(MR)が薬の効果に影響を与える可能性も示唆している。新しい薬をあたかも患者個人に限定して処方しますよなどと言って処方するとそれだけ効果があるらしい。新しいということはそれだけ良いということを意味するようだ。実際、新薬は発売当初はかなりの効果をあげるものの、しばらくすると類似薬と同じ程度の効果に落ち着くという。


どのような患者がプラセボ効果を発生させやすいかは特定できないようだ。また発生させやすい医師の条件を特定することも難しい。患者と医師の関係がプラセボ効果に大きな影響を与えていることは間違いないようだ。

宗教や祈祷、錬金術社会学などにも話が及ぶ。

ホメオパシーという言葉が多く登場する。ネットで調べたところ「同毒療法」とか「同病療法」と訳すらしい。