ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する

読了。経済学の本という感じがまったくしない。最後の名前がその子の人生に与える影響を述べたくだりを見ると社会学の本みたいだ。以前読んだ「“子”のつく名前の女の子は頭がいい―情報社会の家族」(ASIN:4896915828)を思い出させる。

黒人と白人の子供の名前は大きく異なるという。この傾向はますます大きくなっている。また所得が高い親と低い親の間でも子供につける名前は大きく異なっており、教育水準の違いも同じような結果をもたらしている。そして名前はその子の人生にも影響を与えているように見えるが、名前そのものが原因ではなく、名前を付けた親の格差が子供の将来に影響を与えているという結論だった。

親が子供の成長にどの程度影響を及ぼすかというくだりも興味深い。親の特徴(所得や教育水準など)は子供に影響を与えるものの、親が子供に対して行ったこと(育児プログラムに通ったり、美術館に連れて行くことなど)はあまり子供には関係ないという。養子は学校では比較的成績が悪く、育ての親の影響力は遺伝子の力に負けるようだとの指摘もあった。学校の成績が悪いには黒人だからという原因ではなく、貧乏だからというのが正しいとも。親の所得が子供の成績に関係するとの指摘は日本でも認められるようだ。以前「大衆教育社会のゆくえ―学歴主義と平等神話の戦後史」(ASIN:4121012496)を読んだときにもそのような調査が指摘されていたような気がする。昨日読んだ上記の「反社会学講座」(ASIN:4872574605)でも同様だ。

この本で紹介されているような研究を実現できたのは、データを利用することができたためである。学力テストを分析して先生のいかさまをあぶりだしたり、出生証明書を分析して名前と親の特徴を分析するためにはもちろんデータが存在しないとできない。日本だとこれらのデータ自体が入手できないのではないだろうか。分析するために用いている回帰分析に関してはあまりよく分からないのだが、そんなうまい具合に特定の変数だけを抽出して相関関係を調べることができるのだろうか。一般的に用いられているのだから問題はないのかもしれないが、なんか不思議な感じだ。

インセンティブ(金銭的なインセンティブだけではなく、道徳的なインセンティブも含む)が日常生活の礎であるとの考えが本書の根底にあり、「経済学的思考のセンス」(ASIN:4121018249)に似た印象もすこし感じる。ただ後者の場合はより伝統的な題材を扱っている。

この本の下敷きになったfreakonomicsはNew York Times Magazineに月1回登場している(隔週だと思っていたが訳者あとがきでは月1回らしい)のでこれからは読むようにしよう。著者達のブログはhttp://www.freakonomics.com/blog/だ。